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6月25日 VirScan:総合的ウイルス感染歴検査(7月23日号 Cell 掲載予定論文)

2020年6月25日
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ウイルス感染を考える時、特定のウイルスについての感染とそれに対する反応に限定して考えてしまうが、人の一生を考えると、問題になっているウイルス感染より前に、様々なウイルスに感染し、その中には慢性的に私たちの体内に住み着くものまで存在している。そして免疫機能が正常であれば、それぞれのウイルスに対する抗体、T細胞免疫反応が起こり、その一部は記憶細胞として維持される。さらに重要なのは、新型コロナに対する反応でもわかった様に、それ以前の様々な感染経験が免疫記憶として維持され、新型コロナ感染にも動員される。

言ってみると、ウイルス感染は全て環境要因だが、この感染歴史が一種のアイデンティティーを形成しており、特定の感染症を考える時、各人の感染歴アイデンティティーを知ることは、新しい疫学の可能性を開くのではと考えられる。

今日紹介する米国国立ガン研究所からの論文はVirScanと呼ばれる原理的には無限のウイルス抗原に対する抗体を同時に計測する新しい方法を用いて肝臓ガンの患者さんに特徴的なウイルス感染歴を調べた研究で7月23日号のCellに掲載予定だ。タイトルは「A Viral Exposure Signature Defines Early Onset of Hepatocellular Carcinoma (ウイルスへの暴露歴は肝臓ガンの早期発生を定義している)」だ。

この研究の核は何と言ってもVirScanと呼ばれるウイルスに対する抗体を測定する方法だ。この方法は、現在知られている206種類(新型コロナは入っていないとおもう)のウイルス、1000種類にも及ぶ亜種を網羅するウイルス抗原遺伝子を挿入したファージウイルスベクターを用い、ファージの外殻に発現したウイルスエピトープに反応する抗体で免疫沈降し、沈降したウイルスを増やした後、それぞれのエピトープに対するバーコード配列をDNAシークエンサーで解析、配列の出現頻度から、各エピトープに対する抗体の有無だけでなく、量までも測定する方法だ。

もちろん多くの急性感染症ではウイルスに対する抗体は低下してしまうが、体内で抗体を刺激し続けるウイルスも存在する。この方法では、ある時点でのそれまでの抗ウイルス反応の総体が測定できる。

この方法で肝ガン、慢性肝炎、そして正常人を比べると、抗体が反応するウイルスエピトープから推定される感染歴はそれほど大きな差はない。ただ、それぞれのエピトープに対する反応を全て機械学習させ、ウイルス感染歴を数値化すると、同じC型肝炎ウイルスにより発生する肝ガンと慢性肝炎を高い確率で区別できることがわかった。一般的に、肝ガンを発生する患者さんは、インフルエンザやサイトメガロウイルスなど他のウイルスに対する高い抗体を持っている。

さらに重要なのは、肝ガンの死亡率がVirScanをもとに算出したスコアと相関する点で、様々なウイルスに感染歴がある場合、より悪性の肝ガンになりやすいこと、また悪性化率予測も現在最も使われているアルファフェトプロテインよりはるかに高いことを示している。

最後に、この指標と相関する遺伝的背景についても検討し、この指標がホストの何らかのウイルスへのかかりやすさと相関することも示している。

特定のウイルス感染を、不特定のウイルスに対する感染歴から解析するユニークな研究で、まだまだ検討を要する点も多いと思うが、面白い方向だと思う。おそらく、今回の新型コロナウイルス感染で得られた血清でこの研究を行えば、普通の方法では得られない新しい発見があるのではと期待できる。現在、膨大な数の感染患者さんの血清が、臨床経過とともに世界中に集まっている。おそらくすでに解析が始まっていると思うが、何が出てくるか期待したい。

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