チェックポイント治療は、免疫システムがガンを除去させる切り札になることを示してくれたが、ガン抗原特異的免疫反応が誘導できたあとのプロセスを対象にしているため、効果が見られないケースも多く存在している。このため、チェックポイント治療の拡大のためには、ガンに対する免疫刺激をより強く誘導することがカギになる。
ガンに限らずT細胞免疫は、抗原ペプチドと MHCにより刺激される抗原受容体+CD3複合体の刺激と、CD80などの共刺激分子の刺激に対するCD28受容体の刺激により誘導され、PD-1やCTLA4のチェックポイント機能は、この最初の反応が始まってから起こる。従って、ガン抗原による刺激あるいは共刺激を高めれば、理論的にはPD-1チェックポイント治療を高めることができるはずだ。
今日紹介するリジェネロン社からの論文はガン特異的抗体と、CD28刺激抗体をキメラにして、ガン細胞特異的反応が起こるときに免疫反応を高めることで、PD-1チェックポイント治療の効率を上げる可能性について検討した研究で6月24日号のScience Translational Medicineに掲載された。タイトルは「Tumor-targeted CD28 bispecific antibodies enhance the antitumor efficacy of PD-1 immunotherapy (ガン特異的にCD28を刺激するキメラ抗体は、抗PD-1免疫治療の効果を高める)」だ。
リジェネロン社はヒト抗体を作るマウスの作成など、抗体についてのノウハウを最も蓄積している会社と言えるが、ガン特異的にT細胞を刺激する方法について長年研究を重ねている。最初はCD3およびCD28に対する刺激抗体を、ガン抗原を標的にガン細胞上に集め、T細胞を刺激する方法の開発を目指したようだが、現在のところ完全にガン特異的と言える抗原が存在しないため、うまく行っていない。
この研究では、ガン特異的反応についてはガン自体の抗原に任せ、CD28共刺激分子に対する抗体をガン特異的抗原でガン局所に集める方法をPD-1抗体と組み合わせる方法の開発に絞って行なっている。結論から述べると、かなり有望だ。
まず、CD28刺激とPD-1抗体の相互作用について細胞学的検討を行い、PD-1抗体が、ガン抗原でT細胞が刺激されるとき、CD3とシグナル複合体を形成するCD28を、この複合体から追い出す働きがあることを美しい実験で示している。すなわち、PD-1抗体により最初からガン抗原に対するシグナルを高めることができる。
これを確認した後、前立腺ガンで高くなるPSA に対する抗体とCD28に対するキメラ抗体を作成して、PD-1抗体と組み合わせると、それまでPD-1治療に適していなかった前立腺ガンをほぼ完全に絶滅できる。すなわち、前立腺ガンでもガン抗原が存在して、CD3シグナルを誘導しており、共刺激を強めることで十分なガン免疫が誘導できる。
もちろんガン抗原が全くない場合は、この方法はうまくいかないが、逆にガンに抗体を集めるために用いるPSAなどが、正常細胞にもある程度存在しても、反応をガン特異的に制限することが可能になっている。
これを確かめるために、今度はより広い正常細胞が発現していると考えられるEGFをガン局所に共刺激を誘導するために用いる実験を行い、PD-1抗体の効果を高めて、これまで治療できなかったガンも治療できることを示している。
実際には、ヒト化マウスなどを用いて、実際の臨床応用を前提とした前臨床実験を徹底的に行なっている。また、共刺激によるサイトカインストームの副作用についても、サルを用いて検討しており、ほぼ臨床研究へ踏み出すところまで来たことを報告している。
褒め過ぎかもしれないが、さすがリジェネロンと思える研究で、かなり有望な方法になるように思う。ただ、PD1抗体でもいい値段がしているのに、キメラ抗体となるといくらになるのか心配だ。