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6月15日 鳥の多様な模様形成に関わるメカニズムの一端(6月12日号 Science 掲載論文)

2020年6月15日

当分旅行は難しくなったが、アフリカ旅行の醍醐味の一つは、毎日毎日、毎時間、毎時間見たこともない鳥に出会えることだ。この多彩、多様な模様や羽色が形成されるメカニズムを理解しようとしても、どこから手をつけていいか途方にくれるだけだと思うが、こんな課題に果敢にチャレンジしている人たちがいる。

今日紹介するポルトガルポルト大学を中心とする研究グループからの論文は、羽色が大きく変化させるメカニズムの一端を明らかにしたオススメの論文で6月12日号のScienceに掲載された。タイトルは「A genetic mechanism for sexual dichromatism in birds (鳥のオスメスの羽色のパターンを形成する遺伝的メカニズム)」だ。

研究ではオスメス共に同じ黄色の羽を持つカナリアと、オスだけが真っ赤な羽色をもつショウジョウヒワを掛け合わせたF1に、カナリアのバッククロスを繰り返すことで作成された、赤い色彩の分布がオスメスで大きく違う形質を安定して示す交雑種を用いて、この違いを生み出す遺伝的変異を特定しようとしている。

基本的にはバッククロスにより、ショウジョウヒワの一部の遺伝子がカナリアに流入することで、この形質ができたと考えられるので、カナリアとショウジョウヒワ、そして新しい交雑種の全遺伝子配列を解析し、新しい形質に関わる遺伝子の特定を試みている。

その結果、赤や黄色の色彩の元になっているカロテノイドを分解するBOC2と呼ばれる酵素遺伝子をコードする領域がヒワからカナリアに移っていることが確認された。さらにこの遺伝子の発現をオスメスで比べると、赤い色の分布の少ないメスで発現が上昇していること、そしてオスメス共に、色素のない羽に強く発現していることが明らかになった。すなわち、赤い色を壊す酵素の発現パターンが、羽色の分布を決め、またオスメスの違いを決めていることを示している。

以上のことから、羽色の分布という極めて複雑な形質も、BOC2遺伝子の発現調節を調べることでかなり理解できるのではという期待が持てる。

最後に、野生の鳥の羽色の分布を決める遺伝子を特定するために、オスメスの羽色の分布が大きく違うヨーロッパセリンやハウスフィンチの羽に発現している遺伝子を比較し、いくつかの候補遺伝子がリストできることを示すと共に、ヨーロッパセリンではヒワと同じようにBOC2を、オスメスの差を生み出す遺伝子として使っていることも明らかにしている。

残念ながら、複雑な模様ができるための遺伝子調節にまでは至っていないが、しかし一つのメージャーな遺伝子の調節領域の解析で、模様の形成という複雑なメカニズムに大きく近づけるという期待は湧いてくる。

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