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6月14日 なぜネズミに効果がある神経保護剤がヒトでは効果がないのか?(6月3日号 Nature オンライン掲載論文)

2020年6月14日
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私たちの細胞は概日リズムを刻んでおり、その結果活動期と休息期を繰り返していることから、薬剤による治療もこれに合わせて行うべきという話をよく聞く。しかし、細胞レベルでこの効果をはっきりと示した論文はあまり見たこともない。

今日紹介するハーバード大学からの論文は、単純な実験だが薬剤の効果を確かめるためにはやはり細胞の活動性を考慮して効果を調べる必要があることを示した研究で6月3日Natureにオンライン掲載された。タイトルは「Potential circadian effects on translational failure for neuroprotection (神経保護剤のトランスレーショナル研究がうまくいかないのは概日リズムが関わっている可能性がある)」だ。

この研究の目的は脳梗塞に対する神経保護薬を開発することだ。広く知られるようになったが、拘束後できるだけ早く血栓除去をtPAなどを用いて行うことで、梗塞による神経障害を抑えることができる。ただ、これは血流再開の時間を短縮する治療法で、低酸素による神経細胞氏を守るものではない。

これまでの研究で、高酸素治療を始めとして、ラジカル除去剤、グルタメート受容体阻害剤などがマウスやラットを用いた研究で神経保護作用があることが示されており、実際に臨床で試されたものもあるが、残念ながらトランスレーション研究段階で全て効果が認められないという残念な結果で終わっていた。

著者らは、マウスの実験もヒトの治験も全て昼間に行われているが、人間とマウスでは活動性が昼と夜で逆なので、細胞はそれぞれ活動期と休息期にあるはずで、この差が保護剤の効果の違いの原因ではないかと着想した。

そこで、夜活動期のマウスやラットを用いて、血流遮断、再灌流実験を行うと、昼間では効果があった神経保護剤の効果がほとんど消失することがわかった。すなわち、保護剤は概日リズム上、休息期にある場合のみ効果がある。この結果から、人間でも夜間休息期に卒中が起こる場合は別だが、昼間に起こる卒中に神経保護剤が効かないことはうなづける。さらに、卒中の90%以上は昼間に起こるので、ヒトでは保護剤が聞かないことになる。

この概日リズムに従う差が細胞レベルで起こっているかどうかを、マウスの皮質ニューロン培養で確かめている。概日リズム遺伝子Per1,per2をデキサメサゾンで誘導し、高い時を活動期、低い時を休息期として、酸素とグルコース遮断を行い、この時の保護剤の効果を調べると、大きな差ではないが休息期のみで効果がみられる。さらにこの効果が、細胞死のカスケードを抑えることで起こっていることも明らかにしている。

以上が結果で、細胞の実験は差が小さいため、他にも要因があるかもしれないが、私たちの細胞がいかに概日リズムを取り込んで生きているかがよくわかった。簡単な実験だが、着眼点は面白い。

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