免疫チェックポイント治療(ICT)は、ガン抗原特異的な治療ではないが、ガン特異的な抗原に対する免疫反応が存在し、ガンを征圧できることを明らかにした。当然、次の一手はガンのネオ抗原を明らかにし、ガンと戦うT細胞を特定することだ。
ガンのネオ抗原については、ゲノムからガン特異的な変異を特定し、これを抗原として患者さんを免役する治療がメインになると思うが、mRNAワクチンを開発するビオンテックやモデルナに今回巨額の資金が環流したことから、今後の大きな伸展が予測できる。
これに対し、ガン抗原特異的なT細胞を特定することは、簡単でない。ガン細胞と患者さんのT細胞を反応させて、増殖してきた細胞のT細胞受容体(TcR)を含めた様々な性質を調べるのが確実な方法だが、実験室はともかく、臨床応用となるとハードルは高い。
もちろんガン抗原が特定された場合は、患者さんのMHCにペプチドをロードする方法でガン特異的T細胞を特定できるが、これも実際の臨床応用を考えると、現時点ではハードルが高い。
今日紹介する、ガン組織に浸潤するT細胞(TIL)を用いた治療に執念を燃やしている米国NIH Rosenberg研究室からの論文は、転移ガン局所のTILを様々な観点から詳しく解析し、ガンに対して反応している細胞の性質を特定し、これからガン特異的T細胞を特定しようとした研究で、2月25日号Scienceに掲載された。タイトルは「Molecular signatures of antitumor neoantigenreactive T cells from metastatic human cancers(ヒト転移ガン組織から得られたネオ抗原特異的T細胞の分子的特性)」だ。
この研究では、TILに焦点を絞ってsingle cell RNAseq(scRNAseq)を実施し、まず11種類のクラスター(C1からC11)に分解している。次に、RNAseq配列からそれぞれのT細胞と対応させ、まず抗原特異的増殖により分裂しクローン増殖の痕跡を持つT細胞を探し、主に3つの分画にのみクローン増殖が見られることを確認する。
もちろんクローン性増殖が見られるTcRだとしても、ガン特異的ではない。そこで、患者さんの末梢血で同じようにクローン性増殖が見られるTcRを特定し、TILと比べることで、1)クローン性増殖が見られ、2)TILのみに存在するTcRをガン特異的ととりあえず考えて、どの分画にこれが存在するかを確かめると、CD8T細胞もCD4T細胞も、分化が進んで機能が低下した分画(実際にはそれぞれ11種類のうちのC6、C1分画に濃縮されていることを発見する。一方、末梢血にも存在するクローン増殖を示すTcRはメモリーなどに対応している。もちろんこの中にも、ガン特異的TcRも含まれているが、感染などに反応するT細胞や、バイスタンダーT細胞と区別することは難しい。
一方、TILだけに存在するTcRクローンは、ガン抗原との持続的な相互作用により、分化が進み疲弊しているため、機能的にはICTで再活性化しない限り抗ガン活性は失われているが、ガン特異的TcRを特定する目的には役に立つ。即ち、ガン組織が得られた場合、C6、C1分画を調べれば、ガン特異的TcRを特定できる可能性が高い。
そこで実際にこの戦略でガン抗原特異的TcRを特定できるか検証するため、新しいガン組織を解析し、ガン特異的と推定したTcRを持つT細胞を再構成し、ガンに対する反応を調べると、CD8T細胞では60%が、CD8T細胞では30%が患者さんのガン細胞に反応することが確認された。
以上が主な結果で、ガン特異的なTcRを特定する信頼できる方法を探そうとするRosenbergの執念が伝わる力作で、TILを用いるガン治療とともに、TILの新しい利用法だと期待している。