腸内細菌叢がホストの免疫機能に大きな影響を持ち、例えばPD-1に対する抗体によるチェックポイント治療の成否を決めると言うことについては、広く認められるようになった。ただ、この事実を受けて、治療成績をどのように高めていくのかになると、まだまだ具体的な方法は見えてこない。便移植にしても、最終的に何を投与しているのかが完全にわからない段階では、信頼性の高い治療までには進まない。
他にもプロバイオやプレバイオという手段もあるが、これも生活習慣や栄養とガンの関係以上に進まない。例えば最近紹介したテキサス大学の論文のように(https://aasj.jp/news/watch/18696)、疫学的に調べてみたら乳酸菌もビフィズス菌もPD-1治療の予後を悪くするという話すら出てくる。
この難しさはそのまま免疫システムの複雑性を反映している。特に人間の調査になると、PD-1治療と言っても、個体内で起こっているガン免疫反応事態が極めて多様だ。従って、ガンに対する免疫反応をできるだけ単純にした研究が必要になる。
今日紹介するペンシルバニア大学と、Sloan Ketteringガン研究所からの論文は、免疫反応部分を外部から導入したCAR-Tにすることで、複雑なガン免疫を少しは単純化して、細菌叢の影響を調べた研究で、3月14日Nature Medicineにオンライン掲載された。タイトルは「Gut microbiome correlates of response and toxicity following anti-CD19 CAR T cell therapy(CD19に対するCAR-T治療に対する反応と副作用を反映する腸内細菌叢)」だ。
この研究はリンパ性白血病とノンホジキンリンパ腫、併せて228人の患者さんで、CD19-CAR-T治療を受けた患者さんについて、CAR-T治療前に採取した様々な臨床データと、腸内細菌叢についてのデータを、CAR-T治療の成績、副作用と相関させた研究だ。
既に述べたようにガンに対する免疫反応をCAR-Tに統一することで、エフェクターとメモリー細胞の維持のみに単純化して検討が出来る(本当はこれでも十分複雑だが)。ただ、これ以外にもガン治療と腸内細菌叢についての研究にとっては、学ぶところの多い論文だ。
1)まず、ガンを抱えて生きるということ自体が腸内細菌叢を大きく変化させる。実際、主成分解析で見ると、患者さんの細菌叢は多様性に乏しく、細菌種構成を基に行う主成分解析でも、健康人とは全く異なる。すなわち、病気の細菌叢を調べたいとき、健常人との差をしっかり調べた上で、解析する必要がある。
2)健常人との差は、ガン自体の影響、治療の影響などが反映されるが、特に問題なのが、細菌叢を破壊する抗生物質の影響であることが示されている。感染症に用いられる、ペニシリン系とβラクタムを組みあわせた治療や、イミペネム・シラスタチンの合剤をCAR-T治療前に一度でも受けた患者さんは、CAR-Tの効果が強く抑えられてしまう。
3)この結果は、抗生物質自体というより、治療前に抗生物質投与が必要な感染症を起こしてしまった結果であると考えることも出来るが、セファロスポリン系の抗生物質を投与した場合は、影響がないという結果も示されており、やはり抗生物質が細菌叢に影響した結果だと考えていいだろう。
4)このように、治療前の抗生剤の影響を調べることは、臨床データの解釈には極めて重要で、その上ではじめて細菌叢との相関検索へ進んでいける。この研究では、まず細菌叢の多様性が効果に影響することを確認した上で、各細菌種との関連を調べている。
5)線形判別分析で、Ruminococcusなど、いくつかの細菌の影響が特定され、またその代謝物との関係も示されているが、最終的な因果性はわからないので詳細は省く。
以上、結局は現象論から踏み込めないが、CAR-T治療に焦点を当てることで、キラー活性のエフェクターとメモリー機能をより詳しく解析できるはずで、今後の研究に期待したい。