アルツハイマー病は、世界的にも女性に多い病気で、おそらく発症数では男性の2倍以上ではないかと思う。この一つの原因として、閉経期に脳下垂体で合成されるゴナドトロピンの一つFSHの急上昇があるのではと疑われてきた。事実、閉経期に認知機能が一次的に低下することが知られている。
今日紹介するマウントサイナイ大学と深圳大学からの論文はこの考えを裏付け、FSHが直接神経細胞に働いて、アミロイドタンパク質や、Tauタンパク質を切断し沈殿させるメカニズムを促進することを示した研究で、新しいアルツハイマー病の治療開発の可能性を開くかもしれない。タイトルは「FSH blockade improves cognition in mice with Alzheimer’s disease(FSHを抑制することでマウスのアルツハイマー病を改善させることが出来る)」で、3月2日Natureにオンライン掲載された。
このグループは最初からFSHがアルツハイマー病(AD)を悪化させると決めて研究を行っている。そのため、血中FSHを中和する抗体を作成し、これを卵巣摘出で閉経期を再現したアミロイドβが沈殿しやすくしたマウスADモデルに投与している。
これまで知られているように、卵巣を摘出すると、FSHが上昇し、それとともに沈殿型アミロイドβやTauが脳内に検出される。ところが、FSH抗体を投与したマウスではアミロイドやTauの沈殿は見られない。
このメカニズムを探ると、FSHが神経細胞のFSD受容体を刺激して、アミロイドやTauを切断して沈殿させるδシクレターゼを誘導することが原因であることを特定している。実際、このペプチダーゼをノックアウトすると、ADの進行は抑えられる。
もちろんFSHは男性でも分泌されているので、オスのADモデルマウスに長期間FSHに対する抗体を投与し続けると、認知機能の低下が防がれ、アミロイドの集積は見られない。
後は様々なノックアウトマウスを用いて、FSH、 FSHR,、C/EBPβ、δsecretase、アミロイドβ、Tau沈殿という経路が実際に働いているかを確認しているが割愛していいだろう。ともかく、FSHは急性的にも慢性的にも、神経に直接働いて、アミロイドβやTauの沈殿を促進している。
これらの結果は全てマウスでの結果で、人間でも同じことが言えるのか、今後の研究が必要だが、FSHが少なくともADを悪化させるのだとすると、これを抑える治療はADの新しい治療法へと発展できるのではと期待できる。