前立腺ガンは男性では最も多いガンだが、治療効率がよく、5年生存率は極めて良好だ。とはいえ、治療できていたと思っていたら、急に転移が進むケースがあり、この群の治療が難しい。
このようなステージに対して我が国ではほとんど有効な治療が存在しない。最近、西郷輝彦さんで有名になった、前立腺特異的抗原に対する抗体に放射性同位元素を結合させた治療があり、論文でみたかぎりでは驚くべき効果だが、アイソトープ治療に必要な要件を満たす施設がないようだ。
そんな場合、免疫治療に期待が集まるが、これまでの経験から有効性が低いと考えられている。
今日紹介するオレゴン健康科学大学からの論文は、転移性去勢抵抗性前立腺ガン(mCRPC)に免疫チェックポイント治療を適用するための条件を探した研究で、臨床的には重要な研究ではないかと考え紹介する。タイトルは「Androgen receptor activity in T cells limits checkpoint blockade efficacy(T細胞でのアンドロゲン受容体の活性がチェックポイント治療の効果を制限する)」で、3月23日にNatureオンライン掲載された。
これまで行われた治験により、アンドロゲン受容体(AR)阻害とPD1抗体を組み合わせた転移性前立腺ガンの18%が治療に反応することがわかっていた。そこで、治療に反応したmCRPCと反応しなかったmCRPCをsingle cell RNAseqなどを用いて比較、特に組織に浸潤したCD8T細胞の性質を徹底的に比較し、治療反応したグループではARにより転写調節される分子の発現が軒並み低下している、即ちARの活性が低下していることを発見する。
元々前立腺ガンでは去勢などによる男性ホルモン除去とともに、AR阻害剤が投与されており、話をややこしくしているのだが、以上の結果はガンがAR阻害抵抗性になっても、免疫の方ではARを抑えることでキラー活性を高める可能性を示唆している。
この結果に基づき、後はマウスで誘導した前立腺ガンを用いたモデル実験系で、男性ホルモン分泌を抑え、AR阻害を行った上で、チェックポイント治療を行うと、腫瘍の増殖を抑えることが出来ることを示している。すなわち、期待通りARを抑制することで、ガンに対するキラー活性を維持することが出来る。
細胞学的には、ガン抗原の刺激により反応が疲弊してきたT細胞の活性をもう一度高める作用がAR阻害にあることを示した上で、そのメカニズムを探ると、
ARはインターフェロンγの発現に抑制的に働き、これがキラー活性を抑える働きをしており、これを阻害することでキラーをより強くまた長持ちさせられるという結論になる。
結果は以上で、割と地味な研究のうちに入るが、
- チェックポイント治療が効かないとされてきたmCRPCに焦点を当てて、徹底的に調べている点、
- AR阻害に反応できなくなったmCRPCでも、免疫反応については去勢やAR阻害剤の影響が期待できる点、
- さらに、前立腺ガンに限らず、他のガンでも同じ方法を試す可能性がある点、
で、臨床的には重要だと思う。