完全に引退してしまっていると、論文を読むとき誰の仕事かあまり気にならないので、読んで面白いと思った後で著者の所属を見るようになってしまった。このような読み方をすると、どこの国から論文が出ているのか、不思議と当たることがある。
今日紹介する華東師範大学からの論文もそんな例で、読んでいる途中で中国からの論文だなというのがわかった。わかる理由は、研究の発想が変わっている点と、論文の書き方、そしてわかりにくい実験についての記述だ。論文のタイトルは「Local hyperthermia therapy induces browning of white fat and treats obesity(局所的高温治療により白色脂肪組織が褐色化し肥満が治る)」で、3月17日号のCellに掲載されている。
タイトルにあるように、白色脂肪細胞を部分的に熱にさらすと、白色脂肪組織が熱を発生する褐色脂肪組織に変わり、痩せられるという話だ。もともと、白色脂肪が低温にさらされると褐色化して熱を作るようになるという話は生理学的にも納得の話として広く受け入れられている。これに対して、この研究は逆張りを行って、熱を加えることで同じ効果が得られるかを考えている。
この発想はまさにユニークだが、中国伝統医学といえるお灸を考えると、ここで中国かなと思ってしまった。研究ではまず褐色脂肪細胞を41度で培養すると、発熱に関わる様々な遺伝子が誘導できる。
そこで生体でも同じことが起こるか調べるため、体内に注入でき、光を当てると発熱する分子を鼠蹊部に注入、それを41度に10分維持する実験を行い、本来発熱を起こさない白色脂肪組織が発熱することを確認する。人間の実験も行っている。おそらく皮膚の外から熱を鎖骨上部に20分照射すると、発熱が見られる。
最後に、慢性効果を調べるため、3日に一回、10分だけ41度に脂肪組織をさらす実験を行い、高脂肪食を食べても体重の増加を抑えることが出来、さらには血中グルコースも抑えられることを示している。
後はこの効果のメカニズムを調べ、
1)熱は予想通りheat shock factor、HSF1を誘導して、発熱や代謝を変化させる。
2)HSF1はメチル化RNAに結合するタンパク質Hnrnpa2b1を誘導する。
3)Hnrnpa2b1は、発熱に関わる分子のmRNAを安定化させることで、発熱を高める。
ことを明らかにしている。
以上が結果で、最後のメカニズムに至る研究は、新しい発見だと思う。
読んで誰もが考えるのが、ではサウナはどうかだが、このグループは否定的だ。というのも、身体全体のストレスを誘導することで、ノルアドレナリンなどが誘導され、痩せるのに役立たないと結論している。
では実際に何をすればいいのか。もう少しその点のアイデアを議論したらいいのだが、何の答えも提案していない。本当はこっそりやっているのかもしれないが。結局最初思いついたように、毎日お灸を据えるのが良さそうだ。