過去記事一覧
AASJホームページ > 2022年 > 3月 > 2日

3月2日 メトフォルミンの新しい作用機序(2月23日 Nature オンライン掲載論文)

2022年3月2日
SNSシェア

我が国の状況は把握していないが、世界規模で見るとメトフォルミンは現在2型糖尿病に対して最も広く処方されている薬だ。腸上皮細胞のGLP-1を誘導してインシュリン分泌を促し、肥満による炎症を抑えインシュリン抵抗性を防ぎ、肝臓の脂肪合成を抑え、さらには代謝を改善して寿命まで延ばしてしまう。これで500mgの錠剤が20円程度となると、夢の薬と言っていい。

AASJでも、この夢の効果の背景についてYouTubeで解説した(https://www.youtube.com/watch?v=FBBh8JsJguQ)。そして、この作用の多くの部分はAMP-activated protein kinase(AMPK)の持つ多様な作用を介しており、AMPKはミトコンドリアの呼吸複合体の中のcomplex1がメトフォルミンに阻害されることで、AMP濃度が上昇して活性化されると解説した。

ところが今日紹介する中国厦門大学からの論文は、complex1を阻害する経路は高いメトフォルミン濃度により誘導される経路で、実際の服用量で到達するメトフォルミン濃度では、この経路では無くリソゾーム膜上のvATPaseを介する系でAMPKが活性化されることを示した、本当なら、通説を変える重要な貢献だ。タイトルは「Low-dose metformin targets the lysosomal AMPK pathway through PEN2(低容量のメトフォルミンはリソゾーム上のAMPK経路をPEN2を介して調節する)」だ。

元々この研究グループは、細胞内のグルコースが低下したときAMPKが活性化される過程を研究しており、この延長でメトフォルミンがこの経路にも影響がないか調べていたのだと思う。

ただ結果は予想以上で、細胞内のメトフォルミン濃度が40μM程度では、彼らが期待したとおり、リソゾーム上のv-ATPaseを阻害して、リソゾームが酸性になるのを抑えるとともに、AMPKを活性化する。しかも、AMPレベルは変化していないので、ミトコンドリアを介さずに、メトフォルミンがAMPK活性化を誘導することが出来ることが明らかになった。

この新しいメトフォルミン作用経路を探るため、UV照射でタンパク質と共有結合するメトフォルミンを開発し、メトフォルミン結合タンパク質を特定し、その一つ一つをRNAiによりノックダウンしてメトフォルミン作用が変化するかを調べたところ、PEN2分子をノックダウンしたときだけメトフォルミンによるAMPK活性化が起こらないことを発見する。またPEN2が期待通りリソゾームに局在する分子であることを確認している。さらにPEN2のリソゾーム局在を阻害すると、メトフォルミンの作用は失われるので、メトフォルミンの作用はリソゾーム上でvATPaseを阻害することを介することがわかる。

次にPEN2に結合してメトフォルミンの作用をv-ATPase阻害へと媒介する分子を探索した結果、最終的にATP6AP1分子が特定された。PEN2結合タンパク質は全部で123種類同定されているが、その中でv-ATPaseに直接関わるのはこの分子だけで、通常v-ATPaseのコンポーネントとしてAMPK活性化阻害に関わっているが、PEN2と直接結合することで、v-ATPaseの機能が阻害され、結果AMPK活性化に関わることが示された。

最後に、低い濃度でもメトフォルミンの様々な生体作用が得られること、またこれらはPEN2ノックアウトで消失することなどを示して、低濃度のメトフォルミンで、一部のAMPKを活性化することで、メトフォルミンの重要な機能が十分達成できると結論している。

メトフォルミンの作用をもう一度見直す必要性が示された重要な研究だと思う。

カテゴリ:論文ウォッチ
2022年3月
 123456
78910111213
14151617181920
21222324252627
28293031