機能的MRIは、前処理なしに脳活動を精細に調べる方法として現在大活躍している。そして、この原理が神経興奮領域で血流上昇が見られるからだと聞くと、血管をも連動させている脳活動の仕組みに驚く。しかし、なぜこれほどの連動が見られるのかについて、完全に理解できていない。このHPでも、この連動が、小動脈内皮のcaveolaが重要な鍵を持つことを示した論文を紹介したことがある(https://aasj.jp/news/watch/12571)。しかし、メカニズムの解明からはまだまだほど遠い。
今日紹介するマサチューセッツ工科大学からの論文は、この血流が上昇するとfMRIにキャッチされることを利用して、脳神経の興奮をfMRIでモニターする方法を開発できたという研究で3月3日号のNature Neuroscienceに掲載された。タイトルは「Functional dissection of neural circuitry using a genetic reporter for fMRI(fMRIでキャッチできる遺伝的レポーターを用い神経回路の機能的解明)」だ。
この研究の目的は、神経興奮をMRIで捉えられる血流の変化に変えられる分子マーカーを開発することだ。すなわち、神経が興奮すると、血管に働く分子が分泌され、周りの血管に働きかけ、血流を上昇させられるような遺伝標識の開発が必要になる。
急性に血流を改善させるとなると、選択肢は多くない。この研究では、これまで脳興奮に応じて血流を上昇させるのに働いているのではと疑われていた酸化窒素(NO)をこの目的に使えないか考えた。
そして、NO合成酵素にカルシウム結合ドメインを統合して、カルシウムに反応してNOを合成する酵素NOSTICを開発した。
後は、この分子マーカーが
1)細胞内でカルシウムに反応してNOを合成すること。
2)NOSTIC発現細胞をマウス脳に移植すると、カルシウム流入に反応して局所の血流を上昇させること、
3)下垂体の神経刺激に連続して起こる神経興奮をMRIで感知できること。
4)こうして検出できた下垂体と神経結合を持つ脳領域は、Fosの発現や、カルシウムイメージングでも同じように確認でき、確かに神経結合を検出できていること。
などを示している。結論としては、計画通り神経興奮をNOを媒介にして検出できることがわかった。
勿論この技術をすぐに人間に応用することは、検査のために遺伝子導入が必要なので、不可能だろう。しかし、動物実験レベルでは、特定部分の刺激の効果の広がりを脳全体でモニターし、1次的、2次的な神経結合ネットワークを明らかにすることが出来る点で、利用されるのではと思う。
例えば現在行われている深部刺激がどこまで広い範囲に影響するのかをサルを用いて調べることなどは重要なテーマになる。いずれにせよ、遺伝子導入できる分子マーカーをfMRIで検出出来ることが示されたことは大きな進歩で、今後さらなる方法の開発に拍車がかかる気がする。