フィラグリンの変異により重症のアレルギー性皮膚炎が誘導されることが報告されたとき、免疫システムだけでなく、様々な外来抗原から皮膚を守るバリアー機能の大事さを認識した。このように、人間の突然変異の解析は、思いもかけない展開をもたらせてくれる。
今日紹介する米国NIHからの論文を読んで、腸管の炎症についてもフィラグリント同じような話があるのだと実感することが出来た。タイトルは「Mucus sialylation determines intestinal host-commensal homeostasis(粘液のシアリル化がホスト腸管の常在菌のホメオスタシスを決定する)」で、3月31日号Cellに掲載された。
タンパク質の糖鎖修飾については、今回のコロナパンデミックで、様々な場面でその重要性が示されたが、個人的にも理解しづらいところが多いと感じている。この研究では糖鎖の上にシアリル酸をさらに付け加える過程に関わるシアリル酸添加酵素(ST)を対象にしているが、同じ機能の酵素だけでも20種類もある。
この研究ではその中のST6が潰瘍性大腸炎と相関するというこれまでの研究をベースに、糖鎖研究のプロフェッショナル的生化学的実験を行い、
1)ST6は腸管のゴブレット細胞で作られること、
2)ST6はO結合型及びN結合型グリカンの両方にシアリル酸を添加する。
3)粘液タンパク質MUC2のN結合グリカンのシアリル化に必須。
4)シアリル化により、MUC2がバクテリアの酵素により分解されるのを防ぐ。
5)ST6はバクテリアに反応するTLR4シグナルにより誘導される。
まず明らかにしている。
以上の結果は、粘膜を守る粘液バリアーの分解を抑えるのがST6であることを示しているので、フィラグリン変異での皮膚炎症と同じように、幼児期からバリアー機能が傷害され消化管の炎症症状が起こる可能性が高い。このような患者さんをスクリーニングし、ST6のアミノ酸変異を両方の染色体で持つ患者さん3名を特定している。実際には腸炎を持つ患者さんのコホートに参加していた中からこれらの患者さんを発見しているので、変異の可能性を着想することの重要性がよくわかる。
2人の患者さんは、いとこ結婚で同じ変異がそろったホモ変異で、もう一人は異なる変異が集まった複合へテロ変異で、それぞれ分子構造上CMPと結合する重要部分に関わることを示している。また、機能的にも、それぞれの変異によりシアリル化機能が抑えられることを示している。
最後にゴルジ体への移行が傷害されるためにシアリル化が出来なくなるR391Q変異をもつマウスを作成し、
1)この変異が存在すると、デキストランで誘導される腸炎がさらに悪化すること、
2)悪化の原因は、バリアーが壊れることでブチル酸を産生するバクテリアが増殖し、これにより腸管の幹細胞の増殖が低下すること、
を明らかにしている。まとめると、ST6は腸内細菌叢から分泌される細胞壁分子により誘導され、粘液をシアリル化することで腸粘膜のバリアー機能を高める。これが機能しないと、細菌叢のバランスが変化し(これについては理由がよくわからない)、細菌から分泌されるブチル酸により幹細胞の増殖が抑えられ、炎症修復が低下するため炎症が続くことになる。
おそらく、ブチル酸の作用を抑えれば、このタイプの患者さんは治療できると期待できる。