エーザイがAducamabの販売主体を降りたと言う話がメディアで報じられているが、Aducamabに続けるのではと期待して臨床試験に入った他のアミロイドβ(Aβ)に対する薬剤の今後の去就が、Aβがアルツハイマー病(AD)の治療標的として残るかどうかを決めるだろう。
そんなとき、Aβの思いもかけない機能を示す大阪市立大学からの論文が3月15日米国アカデミー紀要オンライン版に掲載された。タイトルは「Peripheral Aβ acts as a negative modulator of insulin secretion(末梢のAβはインシュリン分泌の抑制因子として働く)」だ。
これまで何度もAβについての論文を紹介してきたが、この分子が脳以外の組織で機能していることについては、恥ずかしながら全く予想もしていなかった。しかし、大阪市大の冨山さんたちのグループは、以前からブドウ糖負荷をかけると血中のAβが上昇することを観察しており、この研究でインシュリンによる糖代謝と末梢のAβとの関係を追求している。
詳細を省いて最初の結論を述べると、Aβの動きは血中グルコースや、インシュリンと連動しているが、生体内での様々な条件での検討、試験管内のインシュリン分泌細胞を用いる実験から、
1)Aβ分子は、インシュリンでつながる、膵臓β細胞、脂肪細胞、筋肉細胞、そして肝臓で合成され、貯蔵されている。
2)膵臓β細胞では、Aβはインシュリンと同じように、血中グルコースに反応してインシュリンと同じように分泌される。
3)脂肪組織、筋肉、肝臓ではインシュリンに反応してAβが分泌される。
4)Aβは膵臓β細胞に直接働いて、インシュリン分泌を抑える。
を明らかにしている。
要するに、まさにインシュリンによる糖代謝ループに、Aβの貯蔵、分泌システムが組み込まれていて、インシュリンの分泌を抑える役割があることを示唆している。
これは糖代謝異常という点から見ると、Aβが組み込まれてしまうことで、せっかくのインシュリン作用を打ち消すことになるので、合目的性がないようにも思うが、過食と関係のない状況では、ひょっとしたら血中グルコースを維持して、脳にリクルートする機構とすら考えられる(勝手な推察です)。
一方、Aβが最初のトリガーになるADから見れば、脳からのAβは糖代謝を狂わせ、脳を高いインシュリンレベルに晒すことで神経細胞代謝異常を促進する可能性があるし、末梢のAβが脳での蓄積に何らかの役割を果たして、ADを悪化させることも考えられる。
いずれにせよ、人間でも同じことが確認できれば面白い。一番重要なことは、Aβのインシュリン分泌抑制機構、及び抹消でのAβ分泌機構の解明だろう。これが明らかになると、Aβに対する介入の影響も、末梢Aβへの影響を考えながら解釈出来るようになり、新たな光が当たるかもしれない。